あたたかかったケース検討会
心理・精神科臨床
2025.05.31
そこに 想像力と愛が あるかどうかなんだ!
「ケース検討会は悪いところ探しの会なのか?」からもう8か月経ちましたが
先日の検討会でのお話がうれしく、ご報告したくなりました。
話し合いでの現在地での方向性は「もっとこの子を知らなければならない」でした。
そして「どういうことをもっと知らねばならないか」についてとても詳細に繊細に話し合われていました。
わかりやすい用語や、はやりのことばに押し込めることなく、「その子」の感じていること、考えていること、どう生きてきたのか、どう生きているのか、どうしていきたいのか を知ろうとしなければ安易なことは言ったりできないというあたたかい慎重さ。
*「HSPなんじゃないか」とか 「検査したらどうか」とか 「SSTしたらどうか」とかではなく
* 親がもっとこうであればいいとか 本人のこう変わらないとダメとか ではなく
いまここにいいるご自分たちが、日頃そのお子さんとともにいるひとが、その子に、どう臨むのか ということの話し合い。
そこで感じたことは、「旧三種の神器」(前コラム参照)に代わり、3つのキーワードを共有することの重要性です。
それは 「個別性」 「流動性」 そして「両価性(アンビバレンス)」です
「個別性」そのままですが、おなじ事柄でもひとりずつ 神経の反応 感じ方 考え方 は異なるということ。
ケースを考えるとき、多数派の感覚や自分と異なる思考には否定的な価値づけを市がちです。また画一的なものの見方に陥りがちな点も注意が必要です。
「背が高い」ことが誇らしい子もいればそのことに悩む子もいるでしょう。成績でも家族構成でもなんでも同じです。「〇〇とは限らない」のです。当たり前のようでいて実は気づかずにいてしまう観点です。
「流動性」は 時間とともに変化することです。
わたしたちも「前はこう言ってたじゃない」「いや、その時はそうだったけど」みたいなことはありますよね。
「いまはそう思っているんだな」という変化しうるものとして理解する 話を聞く ということが大事です。
これも当たり前のようですが、自分以外のひとにはちょっと厳しく受け止めてしまいがちです。
延命治療はしない 自宅で看取りをする と決めていても いざ容態が悪化すると、決心が揺らぎ救急車を呼んでしまった などは十分理解できることですよね。それを責めることができるとしたら想像力がなさすぎるというその人の問題です。
「両価性」は 相矛盾する気持ちが同時にあること。愛と憎しみのように。
ケース検討で聞いていると、ここが一番気になってしまうことが多いです。
「父親のことは嫌いだそうです」とか
「勉強はもうどうだっていいと思っているといってます」とか
「嫌い」だが「本当は仲良くしたい」とか
「もういいやと投げやりな気持になっているが勉強に取り組めたら本当はうれしい」とか
このアンビバレンスを念頭に置いて耳を傾けてみましょう。
「ほんとはこういう気持ちもあるんでしょ」などと目の前に突きつける必要はないのです。
あえてそちら側の気持ちを見ないとき、出さないとき、暴く必要はありません。
「相反する気持ちもあるのだろうな」とこちらが理解しているということが重要なのです。
関係性によっては「こっちの気持ちはちょっぴりでもないわけじゃない みたいなことはあるかしらね」と聞くようなことはあります。
しかしそれも「関係性」に拠ります。
その「関係性」の基礎こそが「より知ろうとするかかわり」です。
「両価性」についての絵本です
“Double-Dip Feelings: Stories to Help Children Understand Emotions”
by Barbara S. Cain (Author), Anne Patterson (Illustrator)

YouTube
Reading ”Double-dip Feelings”
Listen to this story, read by Heather Stemas, M.Ed., ATR-BC, LCPAT, an art therapist with Children’s National Hospital Creative and Therapeutic Art Services
にても紹介しています。(イラストは新しくなっているようですね)
アンビバレンスはどんなひとにとっても大切な感情です。
いっぽうの気持ちが語られるとき、相矛盾するもういっぽうの感情があることは当然のことです。
しばしばそのネガティブなほうの感情を認められなかったり、抑え込もうとしたり、自分自身にも、相手にも、そうしがちだということもまたよくわかっておく ということが大切でしょう。